October 27, 2002

山本夏彦さんのバラード

コラムニストの山本夏彦さん死去

辛口コラムニストとして知られ、

雑誌「室内」編集人兼発行人を

長く務めた山本夏彦（やまもと・なつひこ）さん

が２３日午前３時５０分、胃がんで死去した。

８７歳だった。

２６日に近親者のみで密葬を済ませた。

後日「お別れの会」を開く予定。

喪主は長男伊吾（いご）さん。

自宅は公表していない。

東京都生まれ。

父は詩人の山本露葉。

中学卒業後、フランスに渡り、

パリのユニベルシテ・ウブリエールに学ぶ。

４７年、「年を歴（へ）た鰐の話」で注目される。

５１年に工作社を設立、

５５年にインテリア雑誌「木工界」

（６１年に「室内」と改題）を創刊した。

通念にとらわれない批評眼と、

歯にきぬ着せぬ小気味よい文体でコラムを発表。

「週刊新潮」「諸君！」などで連載を続け、

「コラムの名人」と呼ばれた。

新人発掘の目利きとしても定評があり、

「室内」から作家の安部譲二氏らを輩出した。

８４年に「軽妙しんらつな文体で

ゆがんだ世相を風刺し、常識の復権に寄与し続けた」

として菊池寛賞を受賞。

９０年に文学者・武林無想庵を描いた「無想庵物語」

で読売文学賞。

他に「日常茶飯事」「茶の間の正義」

「『豆朝日新聞』始末」「私の岩波物語」

などの著書がある。

「週刊新潮」に連載中の

「夏彦の写真コラム」が絶筆となった。

(共同16:15)

*****

山本さんは私がアメリカから

帰ってきたばかりの頃、

知人を通して診てもらいたい、

ということでバイト先の日比谷国際ビルの

今は廃院となった歯科医院に来てもらった一人でした。

山本さんの室内編集室から日比谷の診療所までは

歩いて５分の距離にあったからです。

山本さんは有楽町の電気ビルにある

入れ歯の名人のところで作ったという

入れ歯をしていました。

上が総義歯で、下はパーシャルでした。

昔の歯医者の作ったものですから、

当然レベルの低い入れ歯で、

滅茶苦茶なものでしたが、

山本さんはだましだまし使っているとのことでした。

私に診てもらいたい理由は、

アメリカは医科でも歯科でも世界一だから

悪いところは全部治したい！！

というものでした。

当時私は東京医科歯科大学歯学部に

毎日通勤していた時給約５０００円の講師であり、

コバケンのフォローもあって

東京医科歯科大学歯学部では

やりたいことは何でも出来たので、

コバケンの子分のコウセーを使い

総入れ歯の重合というプロセスをさせました。

それ以外のステップは

私がコバケンの技工室を使い

自分でやったわけですが、

東京医科歯科大学歯学部の教官や

研修医はみんな驚いて見ていました。

私を単なるアメリカ帰りの

クチサキハイシャだと思っていたからです。

事実東京医科歯科大学歯学部に

鳴り物入りでやってくるアメリカ帰りは

みんなそんな連中だったのです。

本来ならば上と下は同時にやらなければ

意味がないのに、山本さんは

何故か上を先にやることにこだわりました。

理由は簡単で下のパーシャルは

アバットメントのクラウンを作らなければならず、

それだけでも８回くらいのアポが必要だったのです。

当時すでに健康を害していた山本さんは、

笑うと落ちる上の入れ歯を早急に

治すことに執着していました。

今なら私の立てた計画に従ってもらうのですが、

当時は私も甘い人間でしたから、

山本さんの泣き落としパワーに押されて、

山本さんの言う通りにしたのです。

上の総義歯は出来、山本さんは喜びましたが、

下の歯の治療に入ろうとする時に、

山本さんの容態は悪くなって、

診療所どころか

会社にも来れなくなってしまいました。

それでしばらく中断ということになりましたが、

その後、その医院は廃院となり、

別の人がやるようになり、

私もG.V. BLACK DENTAL OFFICEを開いて、

虎ノ門からは歩いて通えない距離になったので、

もう山本さんとは会えないことになりました。

私が会っていた頃の山本さんは、

話好きで来ると何十分も治療の前に話をしました。

それは週刊新潮に書いているコラムを

話しているのだと、しばらくしてから知りました。

私も山本さんのコラムのファンでしたから、

そんなことはすぐにわかったのです。

ご子息の伊吾さんのイゴの意味も知っています。

無想庵との仲も知っています。

年を歴た鰐の話も知っています。

それは山本さんのファンならそんなことは

知っていて当たり前のことですが、

イトーヨーカドーの創業者とした

秘密の話も知っています。

赤トンボのサンドイッチのことも知っています。

鶴寿や永田町の割烹料理屋もよく知っています。

それはみんな山本さんが教えてくれたことで、

恐らく山本さんが死んでしまうと、

この世界で知っているのは

私だけとなる秘密だと思います。

私が作った総入れ歯は、

その後どうなったのかわかりませんが、

山本さんと同時期に作った

ビル平田のママの総入れ歯は

２ヶ月前に落として割れたので、

作りなおしましたが、

それが無ければビルママは問題なく

永久に使えたと言っていました。

私は今年、おにいちゃんを

医療事故で亡くしましたが、

山本さんも亡くなって、

私も自分が人の死を身近に感じる年頃に

なってきたのを感じています。

山本夏彦の魂、南無大師遍照金剛。

Norman Yamazaki, DDS.